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名前を入力してください

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「名前を入力してください」
この言葉は皆さんがレストランを予約するときにも、ゲームを始めるときにも見かける言葉だと思います。また終わりの部分を「書いてください」「教えてください」と変えれば、新しいノートを使うときや初対面の人と話すときにも使われる言葉です。
このようにあらゆる場面で求められる名前に対して、みなさんはどのような考えをお持ちでしょうか。
インターネットが普及し、本名とは異なるハンドルネームを複数持つことも多くなってきた昨今ですが、そんな時代だからこそ名前についていま一度考えてみたいのです。

千度呼べば 
思いが通じるという
千度呼んで通じなくても
やめてはしまうまい
神様がうっかりかぞえちがえて
あのひとを振りかえらせてくださるのは
千一度目かも
しれませんもの

この詩は新川和江さんの『千度呼べば』という詩です。
私が中学校に入学して初めて現代文の授業で扱った教材であったことを覚えています。
この詩は千度想い人の名前を呼べばその人が振り返ってくれるかもしれないという詩なのですが、この詩を読んだときに名前とは単なる固有名詞ではなくもっと特別なものなのかもしれない、と不思議な高揚感を感じました

ジブリの映画『ゲド戦記』、『千と千尋の神隠し』などでも名前、特に真名に関する描写がでてきます。真名を忘れてしまったり安易に他人に教えたりしてしまうと、他者の思うままに使役されてしまうという描写が展開されていました。
たしかに名前には様々な効果があるような気がします。例えば子供のころ、いけないことをしたあとに親に名前を呼ばれただけでギクリとした経験がある方も多いのではないでしょうか。または酷く落ち込んだときに誰かに優しく名前を呼ばれてほっとしたこともあるかもしれません。

先ほども触れたハンドルネームは名前のもっと不思議な形態であると思います。
このブログを書く際にふと気になって昨年自分が書いたブログを読み返してみたのですが、稚拙な文章とともによく分からない戯言が並べられていてとても恥ずかしくなりました。しかし、このブログを投稿する際のハンドルネームを昨年のものと変えてしまえば読者のみなさんにその記事を探し当てるのはとても難しくなります。ハンドルネームを変えるだけで私が書いた文章を探すことが途端に難しくなるのです。ちなみにハンドルネームは昨年のものとは変えました。

名前とは単なる名詞ではなく、むしろ名前の主そのものを指すような、大きなものなのではないかと思っています。

さて、昨年度の外語祭は全面オンラインでの開催となりました。在学生だけでなく、地域の方々や受験生が多くキャンパスに集う外語祭がほとんど無人で開催されることになったわけです。外大という空間の雰囲気を知りたい方も、好きでいてくださっている方も、きっとキャンパスに来たかった方がいらっしゃるのではないかと考え、私にも何かできないか考えました。
私は企画局で「世界ことば博」という企画を担当しています。この企画は昨年までは来場者の方々のお名前を様々な言語の文字(キリル文字やハングルなど)に書き換えてカードをお渡ししたり、来場者の方がご自身で名前を様々な文字に書き換えたりするという企画でした。この企画をオンラインで開催するにあたりどのような内容を行うか担当間でもかなり意見が分かれましたが、最終的に希望者のお名前を募集し、その名前を様々な文字で書いた紙を使ってモザイクアートを作成する企画となりました。最後に載せた画像が昨年制作したモザイクアートです。何故わざわざ紙に名前を書くのか?という意見もありましたが、ここには実は狙いがあったのです。

キャンパスに来たかったけれど来られなかった方のお名前だけでも、一足先にキャンパス内に来ていただきたかったのです。

くだらないと思う方もいらっしゃるかもしれませんし、実際担当者にもどの程度私の意図が伝わっていたのかは分かりません。しかし完全に遠隔となり画面の向こうでしか東京外国語大学を体験することができなかった情勢において、お名前だけでも画面の向こうのキャンパス内にあることで少しでもキャンパスとのつながりを感じていただけないかと考えたのです。
本年度の外語祭がキャンパスで開催された際にはこちらのモザイクアートを掲示する予定です。昨年お名前の応募をくださった皆様、お時間がありましたらぜひキャンパスに来て自分のお名前を探してみてください。先に送っていたものを受け取るような気持ちでどうぞお気軽にいらしていただければと思います。

さて、本年度も「世界ことば博」は開催されます。本年度も来場者の皆さんの大切なお名前を、委員が心をこめて文字にさせていただきますのでぜひ足を運んでいただければと思います。会場でお待ちしています。